今回、演習Ⅲの時間に様々な運動の正確性を調べる実験を行いました。今後、シリーズ3回にわたって、私、青木君、篠崎君で正確性に関する実験の結果と考察を掲載していきます。
正確性シリーズの第一回は、「ダーツの投動作における正確性」についてです。
実験の感想
ダーツは思いのほか難しく、なかなか思ったところに刺さりませんでした。研究室の壁にも刺さりました。先生、すいません。でも、そんな一投一投が新鮮で面白かったです。
また、ダーツは静的なスポーツなので、サッカー部やゴルフ部の連中とはいえ、いい勝負ができるのではないかと思っていました。しかし、実際は標準偏差では二人に差を見せつけられ、体を動かすゲームでは、私と彼らのようなアスリートには埋められない溝があると改めて感じました。
ただ、かつてソクラテスが言ったように、「無知の知」が大切であり、埋められない溝があり、それを必死に改善しようとする心が我々人間にはもっとも重要なことであると、私は思います。なので、なぜこのように私と彼らの差が表れてしまったのかも含め、いろいろ考えてみたので読んでみてください。
1K10C478-2
渡部 潤
1. はじめに
スポーツにおいて、正確性が求められる場面はよく見られる。例えば、野球ではピッチャーの投球には正確なコントロールが要求される。また、過去の実験では、テニスやバレーボール等の一流選手が特定の的を狙ったときの的からの誤差が調べられた。その結果、それぞれの競技の一流選手の各試行の標準偏差は、選手から的までの距離の約3%になっていた。この3%の標準偏差はどの競技にも見られた。
そこで、今回の実験ではダーツを用い、一流のダーツ選手ではない被験者のダーツの投動作における正確性について調べてみた。
2. 実験方法
市販されているダーツボードを使用し、ダーツボードの中心を狙って投げた。
被験者にはダーツボードから245cm離れた地点から投げてもらった。試行数は全部で15投である。ただし、ダーツボードに刺さったものを一試行と数える。
被験者は、インディアカ選手(J)、サッカー部所属選手(K)、ゴルフ部所属選手(高校時代は野球部投手)(M)の3人である。
ダーツの刺さった地点は床に水平な軸と床に垂直な軸で座標をとり、中心からの距離の標準偏差を算出した。そして、標準偏差が的からの距離245cmに対してどのような割合になっているかを調べた。
3. 結果
図1は各被検者のダーツが刺さった位置を示している。
図1より、全ての被験者でx方向よりもy方向の誤差が大きくなっていることが分かる。Jではx方向では最大で11.1cmの誤差であるが、y方向では最大で33.8cmの誤差があり、y方向の方が誤差が大きくなっている。Kではx方向は最大で8.1cm、y方向は14.4cm、Mではx方向は10.5cm、y方向で11.8cm、というようにy方向の誤差の方が大きかった。また、表3より、目標からの距離における標準偏差においても同様にx方向よりもy方向の方が大きくなっている。
図1. 各被験者の全試行
各被験者を見ていくと、Jは標準偏差が約14.1と最も高く、運動部に所属しているKとMはそれぞれ標準偏差が約8.26、約8.18とほぼ同じであった。それぞれの被験者の標準偏差をダーツボードからの距離との割合でみると、Jは約5.76%、Kは約3.37%、Mは3.38%というように、先に述べた一流選手が的を狙った時の正確性である3%に近い値が見られた。
4.考察
運動経験年数が長いKやMでは運動経験年数が短いJよりも標準偏差が小さかった。また、KとMでは野球投手経験があるMの方が標準偏差は小さかったが、大きな差は見られなかった。運動経験の長さが標準偏差に影響を与えた理由は、身体をコントロールする能力に関係していると考えられる。サッカーもゴルフ、野球も全身のバランス能力が非常に重要な競技である。ダーツのようにあまり全身を動かさないような動作では、身体を静的に安定させておく能力が高い方が有利であろう。なぜなら、身体を安定させる能力が低くなってしまうと、身体の揺れが大きくなり、手先まで揺れが伝わってしまうため正確な投動作を行うことができなくなってしまうと考えられるからである。したがって、長い運動経験から身体のバランスのとり方を学習し、静的な姿勢において余分な動きをコントロールできる能力をもっている方がダーツのような投動作では正確性を高めるのであろう。また、Mは野球の投手を経験しているため、ダーツのように手で物を投げるような場合には投手経験が有利に働くと予想された。つまり、Mは他の被験者よりも標準偏差が小さくなるように思われた。しかし、実際のデータではMはKとほとんど変わらない数値であった。このような結果から、ダーツにおいて野球の投球動作の技術はあまり関係がない可能性があることが考えられる。
被験者全員の標準偏差は、本レポートのはじめに述べた、一流選手が的を狙った動作の正確性3%から大きく外れることは無かった。おそらく、ダーツの投動作がこのような正確性に関与しているのであろう。ダーツでは他のスポーツの投動作等に比べて身体の動きが非常に少ない。実際にダーツの投動作で使われている身体の部位は肩から先だけであろう。つまり、制御する関節や筋肉が非常に少ない。一方、野球の投球では全身を使い、足から体幹、指先まで動かしボールをコントロールしなければならない。したがって、全身の関節や筋肉を制御しなければならない。そのため、経験者と未経験者でコントロールに大きな差が出やすいと考えられる。しかし、ダーツのように動かす部位の少ない動作では経験者と未経験者の間で差が出にくいと考えられる。その結果、一流のダーツ選手ではない今回の被験者でも標準偏差においては3%という値に近づくことができたのであろう。ほかにも、ダーツの競技特性も標準偏差を低くする要因として考えられる。ダーツは一人の選手が的を狙ってダーツを投げるというシンプルなもので、自分のペースで投げることができる。したがって、慎重にゆっくり投げることができる。一般に、速さと正確性にはトレードオフがある。つまり、正確性を高めるためにはできるだけゆっくりした動作を行う必要がある。その意味でダーツは速さを追及する必要もなく、ゆっくり正確に動作を行うことができる。このようにして正確性を高めることができることも標準偏差を低くする要因と考えられる。
また、被験者全員がx方向よりもy方向のほうが誤差が大きく、標準偏差も大きかった。このような結果については、ダーツの投げ方が関係していると考えられる。ダーツを投げる際に主に肘の屈曲伸展動作によって縦に前腕を動かす。したがって、ダーツをリリースする際にx方向には誤差が生じにくいが、縦の前腕の動きによってy方向には誤差が生じやすいのである。そのため、全被験者ではy方向の方が標準偏差が大きくなっていたと考えられる。
今回の実験結果からは読み取れないが、実験時の観察ではダーツの軌道が山の低い放物線であり直線に近くなると正確に的に当てやすいと感じられた。ダーツの軌道を投げる前にイメージするとき、直線で投げられる場合ではダーツと的を一直線で結ぶようにイメージをすれば良い。しかし、ダーツの軌道が山の高い放物線になる場合は具体的な軌道のイメージが付きにくく、その結果、実際に投げたときにも狙った的から大きく外れてしまいやすくなることが考えられる。したがって、ダーツをより直線的に投げられるような技術が、的に正確に当てるための技術として求められるのではないかと思った。
ダーツをより直線的に投げるための技術に、投げる際に投速度を向上させることが挙げられる。ただ、スピードと正確性のトレードオフより、あまり速度を高めると正確性が低下してしまうことが示唆される。ただし、筋力の強い人が投げる場合、ダーツの最大速度は高くなり、軽く丁寧に投げても速い速度でダーツを投げることができる。よって、ダーツの速度が速くても、その人の出せる最大速度に対してそれほど高くならなければ、その人にとっては丁寧に投げることが出来るので、正確性は低下しないのではないかと思われる。したがって、的に正確にダーツを当てるためには筋力等を高め、ダーツを投げる最大速度を高め、丁寧に軽く投げても、ダーツが速く直線に近い軌道になるようにすることが必要かもしれない。今回の実験では、もっとも標準偏差の小さかった野球投手経験者のMがこのようなダーツの軌道を示していたように見えたので、上で述べたことがダーツの正確性に関与していることを調べる必要があるかもしれない。


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